低温物理学分科

スタッフ 教授 佐々木 豊
准教授 松原 明


低温物理学研究室は、マイクロケルビン領域までマクロな物質を冷却する超低温度生成技術を得意とし、絶対零度近傍において量子多体系が示す多彩な量子凝縮状態を実現し、量子多体現象についての本質的な知見の取得を目標とする研究を行っています。そのため個々の物質の詳細な特性を探求することよりも、シンプルな構成要素からなる物質を舞台として普遍的な物理現象を理解することに重きをおきます。その舞台としては液体・固体ヘリウムを主として使用しています。

ヘリウムを舞台とする基礎物理

ヘリウムにはフェルミオンのヘリウム3とボソンのヘリウム4とがあり、電子は閉殻状態となっていますので、他の多くの物質で見られるように電子状態が物性の主役を果たすのではなく、原子そのものの量子統計性が主役を果たすという類い稀な物理系です。そのため絶対零度近傍では同位体のヘリウム3、4が量子効果によって相分離現象を示す等の面白い性質を持ちます。このシンプルな理想的物質系を舞台として発現する、液体の超流動や固体の核磁気秩序などの巨視的波動関数で記述される現象が研究の対象となります。この舞台の上で物質の個性によらない普遍的な現象を詳細に研究することが研究ポリシーです。物性論的な現象のみならず、宇宙論・素粒子論など実験研究する事が困難な基礎物理に通じる実験研究を行う事も稀ではありません。

空間非一様な量子凝縮系の研究

巨視的波動関数で記述される量子凝縮系の理解はかなり精密なレベルまで完成して来ていますが、近年では空間一様な系の精密な理解を元にして、空間非一様な系をより精密に理解する事へと研究が発展しています。空間変調の掛かった状態などを理論的に推定されたモデルを頼りに研究するアプローチに代えて、波動関数の空間変化を直接的に測定する手段として磁気共鳴映像法(MRI)を発展させた測定手段を自主開発し、世界唯一の超低温MRI装置を用いた独壇場の研究を進めています。

制限空間における量子凝縮系の研究

特殊形状空間(低次元空間や多重連結空間など)に閉じ込めることで引き起こされる対称性の異なった量子凝縮状態の探索や、半空間の境界面あるいは対称性の異なる2相の境界面近傍でトポロジカルな拘束を背景に発現するユニークな素励起、量子渦やドメインウォールといったトポロジカルな拘束で安定化された構造体などの研究を進めています。

低温技術開発

物質を取り替えながら同種の測定を繰り返すのではなく、物質そのものは舞台と捉え、物質のおかれる環境を制御する事で舞台の模様替えをするスタイルで研究を進めるためには、オリジナルな実験技術の開発が鍵となります。核磁気共鳴(NMR)やそれを発展させた磁気共鳴映像法(MRI)、SQUIDを用いた微小信号計測技術、超音波測定や微小機械応答測定など多彩かつオリジナルな測定手段を開発することで、オンリーワンの研究を目指しています。