非平衡物理学分科

スタッフ 准教授 武末 真二


非平衡系では、輸送や緩和といった平衡系とは全く違った動的な現象が見られます。平衡に近い「線形領域」では線形応答理論などの関係が知られていますが、平衡から遠く離れた系を含む一般的な理論体系は未だ存在しません。本研究室では、主として格子模型を用いて熱伝導などの輸送現象を扱うことにより、非平衡系の基礎理論を探求する試みに取り組んでいます。

格子熱伝導

固体の比熱のような平衡系の熱的性質は、デバイ模型のように、線形バネで結合された粒子系という描像でよく説明されます。しかし、このモデルは非平衡系では破綻し、熱流が温度勾配に比例するというフーリエ則を説明できません。このままではフォノンの散乱が起こらないからです。そこで、平衡系を議論するときには切り捨てた非線形項が重要になります。我々は、非線形の系を扱い、熱伝導状態における運動量分布のゆがみの性質などを扱ってきました。また、量子系に拡張し、スピン自由度が熱を運ぶような熱伝導についても議論してきました。 57

保存量を持つセルオートマトン

セルオートマトン(CA)とは、格子点上に置かれた離散的な値を取る力学変数が、離散的な時間ステップで時間発展する、時間・空間・変数のすべてが離散的な力学系です。計算機で扱うのに適しているため、さまざまな物理系のモデルとして使われていますが、我々は基礎に立ち返り、保存則の有無と保存量の統計的・動力学的性質について議論してきました。その結果、保存則を持ち可逆な時間発展をするCAは熱伝導系と類似の性質を持ち、保存則を持つが不可逆な時間発展をするCAは、交通流や粉体などの散逸粒子系の輸送と類似の性質を持つということが明らかになりました。

混合系の破壊強度

固体が破壊する現象は極めて非平衡性の強い現象であり、工学的にも重要な現象ですが、物理としても盛んに調べられています。我々は、ある閾値より大きな力が加わると切れてしまうバネで結合した粒子系や閾値以上の電流が流れると切れるヒューズのネットワーク(ランダムヒューズ模型)などのモデルを用いて、ばね定数や抵抗にランダム性があるときに破壊強度がどう変わるかという問題を考えました。その結果、ある場合には混合系のほうが一様系よりも破壊強度が増すという非直観的な結果を得ました。 154