凝縮系理論分科

スタッフ 教授 栁瀬陽一 講師 Peters Robert
准教授 池田隆介 助教 手塚真樹
准教授 吉田恒也 助教 大同暁人


電子、原子、分子といった量子力学に従うミクロな要素が、マクロな数だけ集合し、相互作用を及ぼし合うと、個々の要素が持っていた性質とは著しく異なった、全く新しい物理現象が生じることがあります。超伝導、超流動、ボース・アインシュタイン凝縮、磁性、金属絶縁体転移等は、そのような典型例です。 凝縮系理論グループは、このようなマクロな数の要素が織りなす多様な物理現象を 量子多体論の観点から理解することを研究目的とします。これらの多体問題を理解するには、個々の要素を支配する基本法則の知識だけでは不十分で、要素還元論は通用しません。その意味で凝縮系物理学は今日でも魅力ある新現象が発見される可能性に満ちていると言えます。私たちは、これら多体現象の背後に存在する新しい普遍法則を見いだし、それを記述する理論の構築を目指しています。研究の手法としては、場の理論のような解析的手法から、計算機による数値シミュレーションまで幅広いアプローチで取り組んでいます。

相関の強い電子系の多様な量子凝縮相

固体中の電子が互いに強い相関をもって運動する系では、電子の有効質量が元の数千倍となったり(重い電子系)、異方的な超伝導やモット転移のような興味深い性質が現れたりします。また、局在したスピンが相互作用する系では、様々な秩序相の競合がみられます。さらに、系の非一様性が、秩序相の形成にどのように影響するかも、興味深い問題です。電子のスピン・軌道や、格子振動などの多様な自由度が絡み合うこのような系の性質を、繰り込み群、動的平均場理論などの手法によって調べています。

量子ゆらぎの効果の強い低次元系の相転移

有機物や遷移金属酸化物の系では、電子構造が極端な異方性をもち、有効的に1次元や2次元に近くなっているものが見られます。結晶の次元性を人工的に制御する実験も進んでおり、また、冷却原子系でも、原子を低次元に閉じ込めることが実現されています。1次元、2次元の系においては量子揺らぎの効果が特に強く現れます。1次元系では共形場理論やベーテ仮設解のような強力な解析的手法が利用できる一方、数値的にも、密度行列繰り込み群のような方法で様々な多体系の振る舞いをほぼ厳密に計算できます。低次元における多体系の多彩な振る舞いをミクロな観点から解明する研究を行っています。

量子効果が顕著にあらわれている系である超流動4Heと3He

ヘリウムは、常圧で絶対零度まで固体とならない唯一の元素です。ボソンの4He,フェルミオンの3Heはともに低温で超流動となるヘリウム液体です。3Heは、固体表面への吸着やナノスケールの多孔質媒質への導入によって、バルクでは実現しなかった新たなフェルミ超流動相を示すことを理論的に予言してきました。ボース系である4Heに関しては、相転移に伴う臨界揺らぎや系の乱れの効果など、普遍的な側面を中心に研究しています。

冷却原子系の量子凝縮相とダイナミクス

極低温に冷却した中性原子を真空中に閉じ込め、原子の感じるポテンシャルや原子間相互作用を制御する実験が進んでいます。多様な内部自由度をもつボース・アインシュタイン凝縮体や、フェルミオンの系のBCS-BECクロスオーバーが実現されており、光の定在波による結晶のような周期格子の導入も実現しています。
これらの系は、固体の系の複雑な量子多体現象の一部を切り取り、パラメータを自由に制御して再現できる量子シミュレータとしても注目されています。多様な光格子の系での新奇な量子凝縮相や、相互作用する系を外部から制御したときに生じる量子ダイナミクスを解明・予測する研究を進めています。

量子多体系のトポロジカル相

量子ホール効果や、超伝導体・超流動体における量子化された渦のように、トポロジカルに特徴づけられる現象があります。近年、トポロジカルに非自明な電子状態をもつ絶縁体の表面・界面において、量子スピンホール効果など、新たな現象が次々に見出され、このようなトポロジカル絶縁体と深く関係した超伝導体も発見されています。トポロジーに注目することで新たに明らかになる様々な輸送現象の間の関係や、強相関電子系・光と強く結合した電子系などで現れる、新たなトポロジカル相の予測などの研究を行っています。

磁場下の超伝導相

超伝導体は一様磁場下で実用化されるので、磁場下の超伝導の研究は重要です。一様磁場による量子渦(ボルテックス)の生成やパウリ常磁性により、超伝導が壊れかけた状況で、FFLO超伝導、ボルテックスグラスなど、様々な新奇超伝導状態がこれまで見出されてきました。多様な超伝導物質の出現により、臨界揺らぎの強い相転移現象、電子相関により増強されたパウリ常磁性の効果、冷却原子系との関連など、様々な側面が見出されてきており、こういった興味深い現象の包括的な研究を進めています。