ハイライト

平成24年3月9日

京都大学チームも大活躍、T2K実験の結果が英国の物理雑誌 PhysicsWorldのTop 10 physics breakthroughs in 2011に選ばれる。

この度、英国物理雑誌PhysicsWorld の選ぶ2011年の物理学における大発見“Top 10 physics breakthroughs in 2011”に、高エネルギー物理学研究室の参加するT2K(ティーツーケー)実験が選ばれました(順位は7位)。対象となった研究成果は、”ミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへのニュートリノ振動の測定”です。

 2010年から物理データ取得を開始したT2K実験は、物質を構成する最も基本的な粒子の一つであるニュートリノという素粒子を、茨城県東海村にあるJ-PARC加速器で大量に作り(1秒間に約100兆個)、そのニュートリノを295km離れた岐阜県飛騨市にある50ktonの純水を使用したスーパーカミオカンデ検出器で観測するという大規模な実験です。ニュートリノ振動は、電子型、ミュー型、タウ型の3種類あるニュートリノが飛行中に種類を変えたり、また戻ったりする不思議な現象です(図1)。この現象は、ニュートリノに質量がないとする素粒子の標準理論では説明できません。ニュートリノ質量があり、その質量に差があると、ニュートリノは飛行中に3種類が混ざり合った状態となり、 混ざり具合が飛行した距離によって移り変わってきます。最初にこの現象が発見された1998年以降、さまざまな実験によりニュートリノ振動の検証が行われて、ミュー型からタウ型、電子型からミュー型あるいはタウ型への振動の存在は確からしいということが分かってきました。しかしながら、どうして質量があるのか?どうしてそのような混合状態になったのか?などの基本的質問には、残念ながら標準理論で答えることはできません。T2K実験では、ミュー型から電子型へのニュートリノ振動を世界で初めて発見することと、他の振動モードのより精密な測定を目標としています。特に、ミュー型から電子型へのニュートリノ振動の観測では、振動後の電子型ニュートリノが現れるのを観測することにより、これまで測定することのできなかった混合状態を測定することができます。T2K実験の結果によって、新しいニュートリノの性質が明らかになれば、先の質問のような、標準理論ではわからないことを説明する新しい理論の構築に大きく貢献できると期待されています。

T2K実験は昨年6月に、2011年3月までに取得された、最初のデータ解析を行い、生成したミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノに振動している兆候を捕えました(電子型に振動していない確率は0.7%)。それ以前は、この振動モードがあまりに見つからないので、振動確率は理論的に0だと考える研究者もいました。そうした状況で出されたT2K実験の結果は、驚きと同時に、また一つニュートリノ研究が大きく前進したという喜び(ライバル実験の研究者には悔しい思いもあったかもしれません)とで迎えられ、人々に多大なインパクトを与えました。さらに、この兆候が正しければ、将来的に反ニュートリノ(ニュートリノの反粒子)を生成して同じ測定を行ったときに、粒子と反粒子の対称性を調べることが可能となります。その測定は、どうして我々の宇宙では物質が圧倒的に反物質より多いのかという、物理学最大の謎を解く鍵になるかもしれません。こういった理由から、今回の結果は、ニュートリノ振動を完全に理解し、標準理論を超えた新しい理論の構築につながる重要な結果であり、まさに物理学における”breakthrough”ということができるのです。

 我々、京都大学グループは、東海村でのニュートリノ方向・強度・エネルギー精密測定のための検出器運用とデータ解析、スーパーカミオカンデでの系統誤差の削減、独立な実験による系統誤差の削減、他の振動モードの測定等、T2K実験には欠かすことのできない中心的な役割をはたしています。

 T2K実験は、東日本大震災後、実験を中断していましたが、皆の復旧作業における不断の努力の末、ついに昨年12月末に実験再開をすることができました(図2)。今年1月からは加速器の運転を再開し、昨年得られた兆候を確定するために、これまで以上に毎日一生懸命研究しています。今後もどしどし、ハイライト記事をお届けしますのでご期待ください。

PhyiscWorld:Physics World reveals its top 10 breakthroughs for 2011
また、さらに詳しいT2K実験の結果の解説は2011年9月15日のGCOEハイライト記事を参照ください。

上図の説明: 今年1月に、震災の後スーパーカミオカンデで最初に観測されたニュートリノ事象。

下図の説明: ニュートリノ振動の様子。飛行距離によって観測される種類が異なる。 図は、ミュー型ニュートリノとタウ型ニュートリノ振動を示す。縦軸は各要素の割合。