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平成23年5月16日

ウラン化合物における四半世紀の謎を解明

 物質の状態は、固体、液体、気体などの古典的な分類以外にも、プラズマや液晶など様々なものが知られており、さらには例えば液晶の中でもネマティック液晶やスメクティック液晶などの分類が可能です。このような異なる状態は、「相転移」とよばれる状態間の変化としてとらえることが可能で、相転移において秩序のしかたが変化し、対称性が変化することが知られています。この「対称性の破れ」を明らかにすることが、物理学として相転移を本質的に理解する上で最も重要です。

 固体中に多数存在する電子も様々な状態を示します。ウラン化合物URu2Si2では、1985年にオランダ、ドイツ、アメリカの3つの研究グループによりほぼ独立に、17.5ケルビン(約マイナス256℃)という低温において電子系の新しい相転移が発見されました。当初は、類似の化合物でよく見られる反強磁性転移ではないかと思われましたが、その後の研究により反強磁性ではないことがわかりました。それ以降、25年以上にもわたる精力的な研究にもかかわらず、「何の対称性が破れた状態であるか」という最も根本的な問題が未解決の状態が続いており、「隠れた秩序」の謎として物質物理学の重要課題になっています。

 今回、物理学第一教室の岡崎竜二大学院生(現名古屋大学助教)、芝内孝禎准教授、池田浩章助教、松田祐司教授らの研究グループは独立行政法人日本原子力研究開発機構のグループと共同で、微小カンチレバーによる磁気トルク測定という、従来の磁化測定に比べて数千倍高い感度を持つ方法を用いて、磁気的な異方性の精密測定を行いました。その結果、17.5ケルビンの相転移温度以下において、結晶構造に保たれている4回対称性を破る2回対称性成分が出現することを明らかにしました。この結果は、「隠れた秩序」状態が、今まで期待されていなかった「回転対称性」を破っていることを直接的に示すものです。

 ウラン化合物は、電子同士の相互作用が非常に強く、強相関電子系として知られて注目されています。現在までに、この「隠れた秩序」の謎に対して、20以上もの様々な理論が提唱されてきましたが、今回明らかになった「回転対称性」の破れはその前提を覆すものです。このような回転対称性の破れた電子の状態は、液晶で知られているネマティック相との類似性からネマティック電子状態とも呼べる状態で(図参照)、強相関電子系に現れる新しい状態の理解へつながると期待されます。また、URu2Si2では、さらに低温(1.5ケルビン)において超伝導が現れることが知られており、ネマティック状態からの新しい超伝導発現機構の解明に役立つと考えられます。

 本研究成果は、2011年1月28日に米科学雑誌「サイエンス」誌に掲載され新聞報道されました。論文はScience refer serviceにより、以下のリンクを通して無料でご覧いただけます。 http://kotai2.scphys.kyoto-u.ac.jp/member/shibauchi/index.html#journals


(図)URu2Si2の結晶構造の概略図に重ねた、ウラン原子面での電子状態のイ メージ図。相転移温度以下で方向性を持った状態となる。