ハイライト

平成22年6月29日

重い電子を2次元に閉じこめる

物質の性質は主に電子によって決まります.金属では動き回ることのできる電子(伝導電子) が多数存在し、フェルミ縮退した電子ガスの状態になっています.電子ガスはそれ自体が 超伝導や強磁性(磁石)になる性質を内在し非常に不思議な性質を示します.電子ガスでは 電子同士に強いクーロン斥力が働きますが、ほとんどの金属ではクーロン斥力は互いに 遮蔽され、電子は自由電子のように振る舞うと考えてもそれほど問題にはなりません. 一方、電子ガスを低次元空間に閉じこめると,さまざまな相互作用やそれが生み出す 物理現象がしばしば極端な形で顔をあらわします.また強相関電子系とよばれる物質で は電子間のクーロン相互作用は十分に遮蔽されず、相互作用の無視できる系では観測さ れなかったようなさまざまな興味ある現象が現れます.このような低次元系や強相関系は どちらも凝縮系物理学の中心的な研究課題の一つです.特に高温超伝導や分数量子ホール 効果が示すように,強くクーロン相互作用しあう電子の集団を2次元空間に閉じこめると, 劇的な現象が現れる例もあります.

強い電子相関が重要な役割を果たす系の代表格の一つにf電子を持つ「重い電子系」 化合物と呼ばれる物質群があります.特に4f電子を持つ希土類化合物の一部は低温で 金属のような振る舞いを示すものの,強い電子間クーロン斥力の効果によって伝導に 関与する電子が自由に動きまわることができず,その結果、伝導電子の有効質量が自由 電子の数百倍に達することがあります.このような重い電子系化合物では最も電子 相関の強い金属状態が実現していると言えます.これまで発見されている重い電子系 化合物はすべて基本的に3次元的な電子構造を持っていました.もし重い電子を低 次元空間に閉じこめることができれば,新しい強相関電子系の舞台を提供するの ではないかと期待できます. 最近物理学第一教室のグループ(宍戸寛明研究員、 安一樹(M2)、芝内孝禎准教授、 松田祐司教授)は低温物質科学研究センター(寺嶋孝仁教授) と共同で分子線エピタキシー法を用いて重い電子系化合物の人工超格子を作製 することにより,自然界には存在しない2次元の重い電子系をつくり出すことに 成功しました(図). 2次元空間の重い電子系は、極低温で自由電子より 1000倍近く重くなり、通常の金属が示す 振る舞いから大きくはずれた異常 な振る舞いを示すことが明らかになりました. 重い電子の人工超格子の実現により,例えば2次元の近藤格子,重い電子系のナノ加工, 新しいタイプの異方的超伝導の実現,そして重い電子系の界面の問題等の新しい研究 分野への展開が期待できます.

成果は、2010年2月に米科学雑誌「サイエンス」誌に掲載され新聞報道されました.