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平成21年9月9日

前野悦輝教授にマティアス賞

2009年9月9日、第9回超伝導国際会議(M2S:Materials and Mechanisms of Superconductivity)にて、ベルント・T・マティアス賞の授賞式が行われ、 前野悦輝教授が同賞を受賞されました。マティアス賞は3年に1度、超伝導の 新物質発見で優れた業績を上げた研究者に送られる国際賞であり、今回の受賞 は前野教授によるルテニウム酸化物Sr2RuO4の超伝導の発見と、その世界的な 研究展開を生んだ業績が評価されたものです。

 Sr2RuO4の超伝導は1994年に前野教授らのグループによって発見されました。 超伝導とは、物質の電気抵抗がある温度(転移温度)以下で急激に消失する 現象です。この現象は、本来クーロン力によって反発しあうはずの電子間に 何らかの引力が働いて形成された、電子の対(クーパー対)によって引き起 こされると考えられています。そのためこのクーパー対は超伝導の性質に 大きな影響を与えます。この対には、電子のスピンが逆向きのものの組み 合わせであるであるスピン一重項と呼ばれる対と、同じ向きのものの組み 合わせであるスピン三重項と呼ばれる対の2通りが可能です。しかし、これ までに見つかってきたほとんどの超伝導体は前者のスピン一重項のクーパ ー対による超伝導体(スピン一重項超伝導体)でした。一方、Sr2RuO4は 理論・実験の両面からスピン三重項超伝導体であることがほぼ確実視され ています。このような物質は現在でも数えるほどしかありません。その中 でもSr2RuO4は化学的に安定で取り扱いも容易であることや、超伝導の舞台 である電子状態がよく理解されていることなどから、スピン三重項超伝導を 研究する上で理想的な物質として世界中から注目されています。また、前野 教授のグループは長年の努力によってSr2RuO4の大型で不純物の少ない単結晶 を得る方法を確立しました。スピン三重項超伝導は不純物の存在に対して 非常に壊されやすいという性質を持つため、スピン三重項超伝導の本質を 明らかにするためには単結晶の育成方法の確立は必要不可欠なものでした。 今や前野グループの作成したSr2RuO4の単結晶は世界中の共同研究者の下 で詳細に研究され、スピン三重項超伝導の物理の解明に大きな役割を果 たしています。
 Sr2RuO4は他にも興味深い性質を持っています。例えばSr2RuO4の単結晶を 育成する過程において単体のRu金属がSr2RuO4の結晶の内部に析出すること があります。このSr2RuO4とRuの共晶では、驚くべきことに超伝導転移が Sr2RuO4の転移温度である1.5 Kよりも遥かに高い3 K超から始まることを 前野教授のグループが明らかにしました。単体のRuは超伝導転移温度が 0.5 K程度であるので、この超伝導はSr2RuO4のものでもRuのものでも ない新しい超伝導だと言えます。現在までの研究によって、この超伝導は Sr2RuO4とRuの境界面で起きているということや、Sr2RuO4と同様にスピン 三重項超伝導であることがわかってきました。しかし、そもそも何故転移 温度がSr2RuO4のそれの2倍以上まで上昇するのかは依然として未解決の 問題として残っており、今も世界中で熱心に研究が進められています。
 今回の受賞は前野教授によるSr2RuO4の超伝導の発見と、その後の世界的 な研究展開を生んだ業績が高く評価されたことによるものです。前野教授 の今後の更なる活躍と研究の発展が期待されます。