ハイライト

平成22年1月22日

早田次郎氏に湯川財団・木村利栄理論物理学賞

基礎物理学研究所と統合となった旧広島大学理論物理学研究所の教授であった故木村利栄先生の遺産の一部 を浩子夫人より財団法人湯川記念財団へ寄付して頂き、これを木村基金として、木村先生が大きな功績を あげられた 重力・時空理論,場の理論と,その周辺の基礎的な理論研究にお いて顕著な業績を上げた研 究者を顕彰するために平成19年度より 「湯川財団・木村利栄理論物理学賞」を設けました。その候補者の 選考や木 村基金の運用を旧広島大学理論物理学研究所と深い関わりを持つ京都大学基礎物理学研究所に 委託されています。 顕著な業績を上げ,かつ,受賞以降も対象分野で中心的な役割を果たしていくことが 期待される研究者に贈られています。

 第三回木村利栄理論物理学賞は京都大学理学研究科の早田次郎さんに送られることとなりました。早田 さんは素粒子論的宇宙論の分野で幅広い活躍をされていますが、受賞の対象となった研究は「高次元重力 理論における宇宙論とブラックホール」です。

 重力を含んだ力の統一理論として、超弦理論という物質の基本的構成要素がひも状のものであるとする 理論が最も有力なものと考えられています。その超弦理論では、我々の住む空間の次元は実は3次元では なく、9次元、あるいは10次元という高次元の空間であることを予言します。しかし、そうした高次元空 間はいまだに観測されていません。したがって、その余分な6つないしは7つの余剰な空間次元(余剰次元) は、何らかの理由で簡単には観測されないようになっていなければなりません。余剰次元の存在を宇宙 論的な観測で検証することは人類の夢といってよいでしょう。一方で、現在我々の宇宙の膨張速度が加速 しているということが観測されており、万有引力の法則による予言と一見矛盾しているように見えます。 現在の標準的な宇宙論では、このような矛盾を解決する手段として得体のしれないダークエネルギーと呼 ばれるものの存在を仮定しています。しかし、高次元に拡張された重力理論を考えることによって、この ダークエネルギー問題が解決できる可能性があり、その研究の重要性が益々高まっています。特に近年、 ブレーン宇宙という新しいアイデアが提案されました。これは、我々の宇宙が高次元空間に浮かぶ膜であ るというもので、従来の世界観を覆すアイデアです。そのような新しいアイデアを宇宙モデルの構築に持 ち込んだ結果、従来の宇宙論的解析手段を超えた新たな理論体系が必要とされました。

 早田さんは、余剰次元の検証を目指した基礎研究を行い、高次元重力理論に基づいたブレーン(膜) 宇宙論や高次元ブラックホールに関して、数々の優れた業績を挙げています。中でも、(1)ブレーン宇宙 の密度揺らぎの進化理論、(2)ブレーン上の強重力場を扱う理論、(3)回転する高次元ブラックホール の安定性解析理論、の3つの業績は、それぞれ1つのみでも本賞の対象としてよい、極めて優れた業績で す。早田さんは、これらの基礎的な問題に対して独自の方法を開発することで重力理論の理解の進展に対 して重要な貢献をされまたした。加えて、宇宙論・重力理論分野において今後も指導的役割を果たすことが 十二分に期待されるということで本賞の受賞となりました。

 受賞式は益川敏英湯川記念財団理事長、江口徹基礎物理学研究所長他の出席のもと、平成22年1月2 2日に基礎物理学研究所湯川記念館パナソニック国際交流ホールにおいて行なわれました。詳しくは こちらをご覧ください。