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平成21年06月25日

岩下 芳久 准教授、高エネルギー加速器科学研究奨励会 西川賞を受賞

 

平成21年3月23日、岩下 芳久准教授(化学研究所 粒子ビーム科学研究領域)が高エネルギー加速器科学研究奨励会 西川賞を受賞されました。
同賞は、高エネルギー加速器ならびに加速器利用に関る実験装置の研究において、独創性に優れ、かつ論文発表され国際的にも評価の高い業績をあげた、研究者・技術者に贈られる賞です。

受賞対象となった研究は「超伝導高周波加速空洞表面・光学検査システムの開発および観察」で、早野仁司氏(高エネルギー加速器研究機構)、田島裕二郎氏(化学研究所、現 株式会社東芝)との共同受賞となりました。

<研究の背景> 
 宇宙の始まりや物質の質量の起源を探ろうとして、リニアコライダー計画(International linear collider, ILC)が国際協力で推し進められています。これは世界史上最大最高の高エネルギー電子陽電子加速器で、全長約40kmに及ぶ直線トンネル内に構築する超精密システムです。現在、世界最大の加速器は、ジュネーブ郊外のCERN研究所にあるLHC(Large Hadron Collider)です[1]。LHCはリング状の加速器でその周長は27km、山手線の大きさに匹敵します。ただ、このタイプだと、粒子を円形軌道に閉じ込めるために磁場で曲げるときに放射光の形で粒子のエネルギーを失うため、加速に限界があります。そこで、リニアコライダーではその名の通り、リニア(直線状)にして、一気に粒子を加速するのです(図1)[2]。この大部分の長さを占めるのが超伝導加速器です(図2)。限られた長さで粒子を加速するためには長さ当たりの加速電圧を出来るだけ大きくする必要があります(高電界化)。従来は銅などを使った加速管が使われていましたが、このために大電力の高周波が必要です。ILCでは超伝導を使ったニオブ製の加速管を使うことになっています。超伝導はよく知られているように極低温に冷やしたときに直流電気抵抗がゼロになる状態で、高周波の場合でも 電力損失を激減させることが出来ます。

              図 1 リニアコライダー計画



                  図2 超伝導加速管

<研究の成果>
 しかし、例えば欠陥が加速管内表面にあって非超伝導部分が発熱した場合、周りの温度を上昇させ、超伝導状態が破れたりして高電圧を保持できなくなります。このため、内表面の管理が重要ですが、構造が複雑なため胃カメラ等を使った比較的分解能の低い観察しかこれまで行われていませんでした。高電界化への障害としては、いくつかの原因が考えられていますが、まず百ミクロンオーダーのニオブ表面上の異常を見つけるべく可視光領域での高分解能カメラシステムの開発をしました[3,4]。


  加速管内面は電解研磨(EP)等の表面処理が行われるため、結晶粒界以外の数ミクロン以下の凹凸はほぼ無くなり、内面はミクロにはほぼ鏡面です。その表面観察には照明が鍵でした。そこで、面発光体であるELシートをシリンダー表面に取り付ける構造を採りました(図3参照)。

 


図3 シリンダー上に取り付けられたELシート

 温度センサーを多数取り付けて温度上昇分布測定(T-map)をし、発熱場所が特定されていたにもかかわらず、これまで何も見つかっていなかった性能が悪い加速管を借りてきて、この裏面を今回のカメラで観察したところ、図4に示すような400~600μmのサイズの三つのスポットが、見事見つかりました。これらのうち大きい方は約1mm程度の距離を持つ双子で、T-mapの分解能では一つに見えます。これまで何もないと思われた内面にこのような欠陥が存在していたとは、これまで誰も思っていなかったので世界中に驚きを与えました。性能向上に対して新しい指針を与えることになったからです。さらに、このような平面の観察だけでは凹凸の情報がありませんが、空胴内面がほぼ鏡面である事を利用して表面の勾配観測をすることにより高さ測定もできました。

図4 Tmapで特定されていた場所の内表面に見つかった欠陥。縞模様は結晶粒界。

 このような性能を持たせることが出来たカメラシステムを使って空胴製作技術を向上させればその歩留まりや性能も上げることが出来、コストパフォーマンスを上げることが期待できます。すでに、DESYやFNALに供給され、更なる数台の要望があります。そのため、我々も更なる性能向上の追求をしています。超伝導空胴自身もILC以外にも European XFELなどの次世代放射光源に利用されつつあり、その利用範囲が広がっています。

 

参考文献
[1] http://lhc.web.cern.ch/lhc/
[2] http://www.linear-collider.org/
[3] 田島裕二郎,岩下芳久,早野仁司:Lバンド超伝導加速空胴の内面検査システムの開発、加速器学会誌 Vol.5, No.1, p.41-49, 2008[4] Y.Iwashita, H.Hayano, Y.Tajima: Development of a High Resolution Camera and Observations of Superconducting Cavities, Phys. Rev. ST Accel. Beams, 11, [093501-1-6], 2008